本年度はまず、ドラマ・小説・脚本等の会話文から行為指示型表現・応答表現の用例を1530例収集し、発話行為の型と文体によって分類した。その結果、日本語母語話者は、発話行為の受益者および聞き手との人間関係によって使用する表現形式(質問型、命令型、当為判断型、遂行動詞型など)を選択していることが明らかになった。 次に、日本の大学で学ぶ中上級から上級の日本語学習者94名(中国語母語話者55名、韓国・朝鮮語母語話者39名)と日本語母語話者である大学生80名を対象に、行為指示型表現の適切性判断を求めるアンケート調査を実施した。アンケートでは、依頼・勧め・話し手利益指示・聞き手利益指示・勧誘という5種類の行為指示型発話行為について、それぞれ普通体・非敬語の丁寧体・敬語の丁寧体という3種の文体で行われる会話場面を設定し、その計15の場面において用いられる表現形式として3〜4種の選択肢を提示した。調査結果は、日本語母語話者、中国語母語話者、韓国・朝鮮語母語話者の母語別に集計し、適切性判断平均値にt検定(有意水準5%)を行った。 調査結果からは、学習者に以下のような判断・認識の傾向があることが明らかになった。(1)話し手側に利益のある場面において、受益を表出しない。(2)敬語の依頼場面において、聞き手に決定権を与えない。(3)勧め場面・勧誘場面において意志形が聞き手を包括的1人称複数に取り込んでしまうことを十分認識していない。 最後に、海外で使用されている教科書5種10冊を対象として行為指示型発話行為がどのように扱われているか調査した。その結果、不適切な行為指示型表現の例文が少なくないことが観察された。 今後、提出する例文や会話文を吟味し、その会話参加者の人間関係を分かりやすく提示するとともに、適切な解説を付すなど、日本語教育においてさらなる整備を求められる点が明らかになった。
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