研究概要 |
本研究の目的は,(1)アカデミック・ライティングにおける第二言語としての日本語小論文のgood writingとはどのようなものとして認識されているかを明らかにし,(2)評価者個人のライティング観を越えたgood writingの要素を検討するとともに,(3)評価の割れる原因を究明し,日本語ライティング評価・教育に貢献することである。 平成20年度に,ライティング教育・評価の経験がある日本語教師10名に,2種類の小論文の「総合的評価」(点数付けと順位付け)及び「マルチプルトレイト評価」をしてもらい,総合的評価時のプロトコルを録音した。また,両評価についてのアンケート調査を行った。 平成21年度は,9月に「ライティング評価の一致はなぜ難しいか:人間が介在するアセスメント」と題する論文(田中・長阪,2009)を発表し,評価の割れる原因について論じた。 次に,上記プロトコル調査とアンケート調査を分析し,(1)「総合的評価」における上位3小論文の順位決定要因,(2)「総合的評価」と「マルチプルトレイト評価」の関係,(3)評価者の小論文評価時の思考プロセス,(4)日本語小論文のgood writingの要素について検討した。 Good writingに関しては,「課題の達成」「主張の明確さ」「構成」「談話展開のテクニック」「客観的で広い視野からのサポート」「オリジナリティ」「表現力の豊かさ」等が順位決定要素となっていることが分かったが,どの要素を優先させて評価するかについては,評価者に共通の認識が認められなかった。その結果,全体的なアカデミックらしさが,「課題の達成」や「主張」や「全体構成」よりも前面に出て評価される可能性が示唆された。これは英語ライティング評価とは大きく異なる点である。日本語小論文において何が最も重要なのかについては,ある程度共通認識が必要であり,本研究によって,ライティング教育にも関わる重要な課題の1つが明らかになった。
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