研究概要 |
本研究では,大学における異文化・日本語教育のための,ビデオ会議システムを使用した遠隔ビデオ会議(以下,ビデオ会議)を,同一空間にて参加者が直接対話する対面会議(以下,対面会議)と比較し,その特徴の重要な部分を明らかにした。 金沢大学の日本人学生と米国協定校で日本語を専攻する米国人学生複数名によるビデオ会議と対面会議のディスカッションを録画した。使用言語は日本語である。分析対象としたのは,同じトピックについて話し合っているビデオと対面会議の記録映像・音声,及び文字化資料で,turn-takingとその周辺で起こる言語・非言語行動について分析した。 その結果,turn-takingの頻度は対面会議のほうが多かった。また,ビデオ,対面会議ともに,日本-日本,米国-米国といった同じ側でのturn-takingが日本-米国といった異なる側とのturn-takingより多かった。turn-takingの内訳は,ビデオ会議では「割り込み発話」は少なかったが,対面会議では,特に日本-日本で多くみられた。ビデオ会議では,turnとturnの間に比較的長い沈黙が多かったが,その際,参加者らは同じ側の参加者の様子やモニタに映る相手側の参加者の様子を窺っていることが多かった。また,turnを取ることを表明する(例「はい」と挙手する),発話を振ることを表明する(例「アメリカではどうですか」と問う)など,明示的な言語・非言語行動が目立った。一方,対面会議では,「でも」等のディスコースマーカーが発話の冒頭に現れるturn交替が多かった。このように,ビデオ会議と対面会議はturn-takingの様相が異なり,それが発話の活発さや会議の進行に影響を与えている可能性が示唆された。要因として,ビデオ会議の環境(カメラ,モニタ,マイクの配置,参加者の座席位置)により,対面会議に比べて視覚的情報が制約されていたこと,今回分析対象とした会議のトピックの性質が考えられる。この結果をもとに,対面会議に近づいたビデオ会議の方法を提案した。
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