平成21年度は、日本語学習者の敬語能力がその他の日本語力とどのような因果関係を持つのかについて詳しく分析するために、中国・武漢市で日本語を学習している大学生(中南民族大学、華中師範大学、中南財経政法大学、湖北大学の計460名)に対して、質問紙形式のテストを実施した。テストの内容は、敬語能力テストと、学習者の日本語能力を測定するための文法テスト、語彙テスト、読解テストである。この調査によって得られたデータを、構造方程式モデリング(SEM)の手法を用いて、敬語の特定形(「いらっしゃる」「伺う」など)、敬語の非特定形(「お〜になる」「お〜する」など)、文法の知識、語彙の知識の4者間の因果関係について分析した。その結果、まず第一に、敬語の特定形の習得が非特定形の習得に強い影響を与えていることが分かった。つまり、中国語を母語とする日本語学習者の敬語習得においては、敬語の特定形の習得が基盤となって、非特定形へと進んでいる可能性があることが示唆された。これによって、日本語学習者の敬語学習に際しては、まずは特定形をしっかりと習得して敬語の使い方に慣れ、その上で非特定形を学ぶのが効果的であるという考察が得られた。これは、効果的な敬語習得の方法を模索する本研究においては、非常に大きな成果であった。第二に、語彙と文法の双方の知識が敬語の特定形と非特定形の習得に影響していることが分かった。これは、敬語は文法論的か語彙論的かという従来の問題にも重要な示唆を与えることができると考えられる。この結果を2009年度日本語教育学会春季大会口頭発表に応募したところ採択され、2009年5月24日に明海大学において、「敬語の特定形・非特定形の習得に対する語彙および文法の知識の影響」と題して口頭発表する予定である。
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