本研究は、外国人日本語学習者の敬語能力を、記述式のテスト形式と「反応時間パラダイム(reaction time paradigm)」による敬語聴解実験の両者の結果を比較することによって、解明することを目的としている。本研究の学術的特色は、日本語学習者の敬語能力を聴解の観点から解明しようとする点と、その手法として聴覚提示による反応時間測定実験を用いる点にある。平成21年度にはまず、日本語学習者のデータに対する統制群として日本語母語話者に実施した敬語聴解実験の成果をまとめ、「聴覚提示された尊敬および謙譲表現の理解-日本語母語話者の場合-」と題した論文として発表した。この論文では、敬語の人称暗示機能が主語から動詞へのトップダウンの形で働いたことが、後続する敬語表現の予測の難易度に影響している可能性を示した。また、平成20年度に中国・武漢市において実施した中国語を母語とする日本語学習者に対する敬語および日本語能力調査の結果をまとめ、「敬語の特定形・非特定形の習得に対する語彙および文法の知識の影響」と題して学会発表を行った。この研究では、中国語母語話者については敬語の特定形の理解が非特定形の理解の基盤となっていることを、SEM(構造方程式モデリング)の手法を用いて明らかにした。さらに、中国語母語話者対象と同様の調査を、韓国・関東大学校で日本語を学習している韓国語母語話者に対して実施した。この調査結果は、現在分析中である。このほかにも、本科研研究を側面から補足する研究をいくつか行った。平成21年度の研究によって、日本語学習者および日本語母語話者の敬語理解過程の解明が一歩前進したほか、今後の研究の方向性について重要な示唆が得られた。
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