研究概要 |
本研究は,従来,第二言語/外国語のリスニングにおいて学習者要因の一つとして認められていた「リスニング不安」に代わる情意変数として筆者が心理的ストレス理論を援用して概念構成をおこなった「リスニングストレス」の生起のメカニズムを理論的根拠に,外国語としての英語のリスニングにおけるその理解阻害効果を明らかにし,その対処方略の開発を試みようとするものである。 研究3年目の平成21年度は,リスニングストレスの対処方略としてのリスニングストラテジー開発の基礎資料を得るために,心理的ストレス理論において一般に認められているストレスの認知処理に対する阻害効果の考え方に基づき,リスニングストレスがリスニングストラテジーに与る可能性があると考えられる影響の分析・解明に取り組んだ。日本人大学生を対象に,本研究で開発した実験デザインに従ってリスニングストレス生起実験をおこない,リスニングストレスによる全般的な理解阻害と認知処理のタイプごとの理解阻害が,方略使用の阻害とどのように関連しているかを分析した。また,より心理的実在性のあるデータ解釈のために,被験者とのインタビューにより得られたリスニングプロセスの内省データを基に,遡及的発話思考プロトコル分析を同時に行った。対象としたリスニングストラテジーは,本研究の予備的研究において第二言語/外国語学習者がリスニング困難場面において用いていることが確認されたもののうち,認知的対処方略が6つ,情意的対処方略が6つの合計12のストラテジーであった。その結果,認知的対処方略に対するリスニングストレスの阻害効果が観察され,特に「背景知識の活用」等のより高次の認知処理が要求されるストラテジーに顕著であった。この結果は,認知処理の種類に応じた阻害効果のうち,特に,「推測」,「一般化/応用」の認知処理に阻害効果が顕著に見られたことと密接に関連していると考えられる。すなわち「背景知識の活用」はこれら2つの認知処理には不可欠なストラテジーであるからである。また,これまでの研究で示唆されたリスニングストレスのワーキングメモリーへの影響についても,プロトコル分析の結果からその可能性が示された。
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