研究概要 |
前置詞の多義研究は、1語の多義を扱うSemasiologicalな研究(例:fruitは果実・結果などの意味があるとする研究)に終始している感があるが、本研究は、それに近似義語を扱うOnomasiologicalな視点(例:果実を表す語にはfruit・nutなどがあるとする視点)を加え、その近似義語間に見られる意味の重なりの緊張関係が意味拡張を阻止すると考えている。19年度は、空間を表す前置詞を中心に、その棲み分け研究を行った。たとえば、英語で「彼は私の頭を殴った」に相当する表現は、He hit me in the head/He hit me on the head.の2通りがある。これに対して、「彼はわたしの頬にふれた」に相当する表現はHe touched me on the cheek.であり、*He touched me in the cheek.と表現されることはない。このようなinとonの前置詞の使い分けに対して、Onomasiologicalな視点や前置詞と併用されている動詞の性質を考慮に入れて説明を加えることによって、inとonの前置詞の棲み分けに妥当な説明を加えることができた。また、英語で空間をあらわす前置詞であるin, at, onと日本語の格助詞、「で」「を」「に」の比較研究もおこなった。At, on, inは、それぞれ、TR(トラジェクター)とLM(ランドマーク)の一致した点、接触している場所、TRがLMに含まれているという場所、つまり、TR、そしてLMという、有界的な<モノ>の空間関係を示すことがわかったが、日本語の格助詞は、goal of motion, path of motion,背景格と、ただ単に、2つのモノの空間的な位置を示すわけではない。例えばたとえgoalという地点を表すように見えても、それは、goal of motionであるという具合に、path(経路)を必ず意識しているものであると言える。つまり、goal of motion, path of motion,背景格というように、空間を表しているかのように見える語は、実は、無界的なpath(経路),背景を表しているということがわかる。その結果、単語レベルにおいても、英語が結果志向であるのに対して、日本語は経過志向であることが示された。さらに、上記の研究成果をもとに、大学生の英語教育・英語学教育へ還元することを視野に入れた英語モジュール教材の作製を行った。この教材は、主に大学レベルでは、授業に臨む前に各自が自学自習できるようになっているのが特徴である。具体的には、基本問題演習とその解説から構成されており、特に解説においては、19年度の研究成果が反映されたものになっている。また、高大連携の成果は、論文「大学教育の質を高めるための高大連携のあり方-英語の前置詞の学習を例として-」にまとめて発表を行った。
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