研究概要 |
前置詞の多義研究は、1語の多義を扱うSemasiologicalな研究(例:fruitは果実・結果・・・・という意味があるとする研究)に終始している感があるが、本研究は、それに近似義語を扱うOnomasiologicalな視点(例:果実を表す語にはfruit・nut‥‥があるとする視点)を加え、その近似義語間に見られる意味の重なりの緊張関係が意味拡張を阻止すると考えている。20年度は、英語の前置詞、near, back, across, behind, at, around, aboutついて現代英語の用例を収集し、各前置詞のイメージスキーマを作成し、結果として中心にくる用法を中心スキーマと認定する一方、他の用法とつながらない用法を孤立用法として確認する作業を行った。そして、これらの成果などを学会や論文で発表するとともに、モジュール化教材の作成のなかで反映させた。現在も作成中のモジュール教材は、授業に臨む前に各自が自学自習できるようになっているのが特徴である。具体的には、基本問題演習とその解説から構成されており、特に解説においては、20年度の研究成果が反映されたものになっている。また、前置詞の研究と関連して、メタファーの観点から日本語と英語を比較することを通して、英語が結果志向・有界的であり、日本語が経過志向・無界的であることを示した。この実証的な研究を通して、改めて語レベルでの相同性が存在することを確認したわけである。今後の課題としては、さらに文レベル、談話レベル、文化・コミュニケーションレベルでの相同性も併せて検討し、言語の発生源である認知構造との相同性、すなわち「発生的相同性」を求めることを通して、言語を通してみる人類学研究の可能性を追求することが重要になるであろう。
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