研究概要 |
我々は、本研究に取り組む以前は、前置詞の多義を従来の意味論でしばしば行われるように、semasiologicalな視点で研究してきた。しかし、その一連の研究で、従来のメタファー・メトニミーによって意味拡張を説明しようとする理論は、(1)意味が際限なく広がることを阻止することはできず、(2)新しい意味の予測が不可能であることがわかった。そこで、意味拡張は、複数の可能性が緊張関係の中に存在した後、それぞれの語の弁別的意味要素により取捨選択されることを通して行われるという見解、つまり、pragmatic strengtheningを中心とした行為理論によって意味「用法」の拡張の可能性を探り、さらに、onomasiologicalな視点(例:果実を表す語にはfruit,nutなどがあるする視点)にたち、近似義語の中心義が意味拡張を制限するという立場をとれば、上述の問題は解決されることに気がついた。さらに、その緊張関係の中で、意味拡張の可能性を阻止されたものは、慣用表現としてのみ存在しうるということがわかり、この考えのもとに前置詞の棲み分け研究を行い、一定の成果をあげてきた。 具体的には22年度の研究においては、on, in, to, till, until, byの研究と、それに基づく教材の作成、さらには高大連携という形での教育における実践を行ってきた。また、本研究テーマとは直接関係ないが、本研究の基盤となっている認知言語学的視点の有用性を確認する意味で、生成文法が唱導しているUGの問題点を考察する研究や、英語と比較する意味で、日本語の助詞の研究なども行った。
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