研究概要 |
本研究は外国語学習者が行う「シャドゥイング」と呼ばれる作業に注目し,その心理学的特徴の解明と効果の検証を試みたものである.本年度は「シャドゥイング」中に行われる学習者の心的活動と,それに対応する音声の特徴を昨年度に引き続き調べるため無意味語と人工文法を利用した追加実験と,練習時に発せられる音声の音響的分析とを行った. 無意味語の実験では信号検出理論を応用した記憶再生成績を検討し,「シャドゥイング」で覚えた単語の再生時に学習者に「自信の程度」を尋ねる形式であった.人工文法の実験は予め作成した構文規則に従った無意味文であるかどうかを強制選択する形式であった.音響分析は両実験中に収録した学習者の音声をコンピュータ上で計測し,ピッチや持続時間,フォルマント遷移などについてのデータを得た.これらの一部は本年度学会誌に論文として発表され,さらに引き続きデータ分析を行っている。更に本年度も継続中であるが,遅延聴覚フィードバック(DAF)の枠組みを利用した実験が進行中である.DAFとは自分の声が遅れて耳から入る場合に発話が乱れたり,逆に吃音の障害が改善したりする現象であるが,自分の声以外でDAFの効果が生じないようにするため,学習者がモデル音声を他者の声として認識している可能性について調査している. 「シャドゥイング」練習は通訳の訓練にも用いられるが,その作業はモデルとなる教師の発音から数音節程度の時間的遅れを許容するという日常生活ではあり得ない不自然な環境下で行われるものである。本研究により行われた諸実験は,その効果と限界を定量的データにより明らかにすることに一部成功したと判断できる.
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