書かれた英単語を音読するためには、英単語の綴りの文字を、何らかの方法で英語の音韻に変換して発音しなければならない。この文字音韻変換に関わる知識は、主に書かれた英単語を読む経験を通して習得される。英単語の音節構造では、子音の文宇と音韻の対応は一定であるが、母音の文字と音韻の対応は一定していない。学習者は、この英単語の音節構造にある文字と音韻の対応関係を、書記素、音素対応関係やボディ・ライム対応関係として習得し、綴りから発音への変換に利用する。日本語母語の大学生の英単語の音読方略には、書記素・音素対応関係やボディ・ライム対応関係による方法ばかりではなく、<子音+母音(CV)>を単位として綴りを変換するCV分割の方法も、同時に係わっている。CV分割は、日本語のかな文字的な、母音の文字と音韻が常に一対一で対応する音節構造を意識した変換方法であり、英語母語話者ではほとんど使われない。CV分割は、英語の母音の書記素と音素の対応についての知識がまだ充分ではないということが、その要因になっている。それゆえ、英語に未習熟な学習者ほどその使用が顕著であるが、英語の母音の文字と音韻の関係を意識し、音読方略として使用するようになると、目立たなくなる。そして、英語にある程度習熟すると、CV分割の代わりに、英語の書記素・音素対応の変換方法の誤用としての、過剰な正則化が顕著になる。この過剰な正則化は、リーディングを習得中の英語母語話者が示す誤答の主な要因でもある。CV分割は、英語を学習する日本語母語話者にとって、日本語と英語の音節構造の見かけ上の共通性を利用した変換方法であろう。一般に、外国語の習得、特に音読方略の習得では、学習者の母語と目標言語の文字音韻構造の違いは、目標言語の習得を困難にする要因になると考えられている。しかし、学習者は、母語と目標言語の間に共通する何らかの特徴を見つけると、それを、目標言語の認知を容易にする一時的な方略として、習得がほぼ完了するまで利用し続ける。
|