本研究は、英語を外国語として学習する日本語母語の大学生における、音節よりも小さな単位(sublexical)での、英単語の正書情報から音韻情報への変換の様相を解明しようとしたものである。20年度実験1では、英語の26個の単字の書記素と29個の連字(digraph)の書記素の刺激材料を用い、音読の正答率と正答潜時および誤答の分析を通して、英単語の文字音韻変換の基本となる、アルファベットの個々の文字(あるいは文字群)に対する音韻への変換の特徴を把握しようと試みた。その結果からは、母音書記素を音素へ変換する方法、特に二重母音を表す書記素を音韻へ変換する方法が英語母語話者のそれと大きく異なることを見出した。20年度実験2では、様々な長さ(文字数)の刺激材料の音素数を聞き分け、その音素に綴りの文字を対応させる単位の取り方から、子音書記素と母音書記素の処理の方法を推定しようと試みた。その結果の分析からは、日本語母語の一般的大学生の英単語の文字音韻変換の方法には、英語の音節の規則性に則ったオンセット(C)とライム(VC)の境界を利用した変換よりも、オンセットとライムの境界を無視したCV単位での変換が多用されていることを明らかにした。 日本語母語の一般的大学生の英単語の文字音韻変換の特徴っいては以下のことが言えよう。1)一般に、英語の音節の文字音韻の対応は、子音ではほぼ一対一であるのに対し、母音では一対多である。日本語母語の一般的大学生では、まず、この、隣接する子音によって決まる母音の書記素音素対応関係の習得が不十分であり、その不十分さのために、CV分割、つまりは子音と母音を単位化(群化)することによって文字音韻の変換を行うことが多い。2)日本語母語の一般的大学生の英単語の文字音韻変換方略は、上記1)で触れた母音書記素と子音書記素を群化する方法、および、連字の書記素を音素へ変換する方法、特に母音のそれを音素に変換する方法のそれぞれをどの程度習得するかによって、変化する。3)英語の文字音韻の対応を習得する過程で、CV分割は日本語母語話者の英単語の文字音韻変換に正と負の両方の効果を与える。
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