本研究の最終目的である「日本の英語ライティング教育における自動採点ソフトウェアの実用性の研究とその利点を生かした授業、評価モデルの構築」の出発点として以下の研究を行った。本研究では、自動採点ソフトを単なる評価の道具として使うのではなく、その様々なフィードバック機能を利用して、指導を効果的にすると同時に学生の自律性を高めることを目標としている。まず、(1)日本の英語ライティング教育の目標と実情にあった評価基準の提案をするために、米国ETSのTOEFL[○!R]やACTFLの基準、ヨーロッパ共通評価基準(CEFR)の調査を踏まえて、現在日本の英語教育で実際に使用されている評価基準の比較分析、検証を行った。基準の種類、適用の仕方や個々の教師の考え方などの違いによりそこには様々な形の評価の揺れと問題点があることが分かった。次に(2)既存の自動採点ソフトについて、その教育的有効性を実践研究によって明らかにし、更にそれが指導のどのような側面では有効であり、どのような側面ではあまり効果が見られないかを実証的に検証した。このような実践研究は参加する教師、学生によって違う結果が得られるため、現在は対象、被験者を変えてより一般的な知見を得る努力をしている。ライティングの総合点については自動採点ソフトと教師(人間)の評価にはかなり相関が見られるが、個々の分析点においてはそれぞれが評価する項目及び与えられるフィードバックの質が大きく違うことが分かった。この2つの流れの研究と同時進行的に、自動採点ソフトが文法や表現などの指導において教師の負荷を減らすことで、教員がより重要な側面の指導と評価(論理的思考や批判的思考を必要とする分野、即ち内容の深さ、論理性、一貫性など)に時間とエネルギーを効果的に向けられるような授業モデルをいくつか構築し、それぞれに対して教員に評価をしてもらい、次年度の比較実験の準備をした。
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