研究概要 |
SLAにおいて広く議論されてきた文法形態素の習得順序(Dulay&Burt, 1974; Krashen&Terrell, 1983他)は、文法訳読を中心にしていた80年代の日本の英語教育環境に置いても、冠詞、所有格を除きほぼ同様の結果を示している(Shirahata1988他)。その結果は、文法指導の立場から見れば、文法指導しているにも関わらず、習得が容易な項目とそうでない項目があることを示している。さらに、本研究の目的から、UGに基づき文法項目を分析すると、機能範疇に関わる項目が習得困難であることがわかる(Zob1 1995他)。この説明は、白畑(2008)のデータにも合致する。従って、機能範疇に関わる項目とそうでない項目の文法指導の効果を引き続き調査する必要がある(研究は継続中である)。 さらに、文法指導の「質」が結果に差を生むのかを調査した。wh疑問文は機能範疇の関わる項目であるが、英語上級者を被験者に文法性判断の調査を行ったところ、補文標識のthatを含む長距離wh疑問文(例: What do you think that John bought yesterday.)を誤って拒否してしまうことが分かった。これは、有本(1999)で指摘されているように、関係代名詞節の説明の際に、Mary is a girl who I think will succeed in the future.のI thinkは挿入であると文法指導されることが多いためであると考えられる。従って、What do you think John bought yesterday.のような文の場合、do you thinkは主節ではなく挿入だと考え、What do you think that John bought yesterday.を誤まりだと判断してしまう。つまり、文法指導の質も習得に大きく影響する(この場合上級者でも)と考えられる。これは、英語教育における文法指導の効果および与えるインプットの質を考える上で、非常に重要な側面であることを示唆している(2009年全国英語教育学会またはJACETでの発表を予定)。
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