<DNA分析> 韓国西部の19箇所23本の巨樹イチョウDNAの実地調査とDNA分析を行なった。その結果、これまで通り日本の西日本で多いDNAタイプが数多くみられた。また、これまで日本でしか見られなかったDNAタイプが1本見つかったが、これは幹周囲が小さく、日本の同タイプの樹の元となったとは考えにくい。 <文化・歴史の比較> 大正時代に刊行された巨樹のデータ集『大日本老樹名木誌』と『朝鮮巨樹老樹名木誌』を資料として、イチョウにまつわるデータや伝説を日本と朝鮮半島とで比較し、さらに他の樹種とも比較した。 【所有者】日本の巨樹イチョウは、神社に最も多く、次いで寺院であった。他の樹種でもほぼ同様であった。朝鮮半島のイチョウは地域共同体が所有するものが最も多く、次いで私有、儒教の施設、寺院、学校の順であった。他の樹種と比べて儒教関係の施設が多いのが特徴である。これは孔子が弟子を教育した「杏壇」の故事に基づいている。 【伝説】「乳信仰」については前年度に報告したので省く。他の特徴として、日本では「杖立て伝説」がスギとイチョウに多い。朝鮮半島にはこの伝説に相当するものがなく、わずかにイチョウで1本だけみられた。また、朝鮮半島では巨樹を卜占に用いるケースが多く、その代表的なパターンは樹が鳴動すると凶事が起こるというもので、イチョウもこれが多い。一方、日本には卜占に関する話が少なく、また樹が鳴動するという話も極めて少ない。 【現存する樹】これらの史料に記載されている樹が、どの程度現存しているか調べた。それぞれ記載本数の多い6種について上位20本ずつ調べたが、その結果、日本では生存率の高い方からイチョウ19本、クスノキ18本、サクラ11本、スギ8本、ケヤキ7本、マツ1本であった。一方朝鮮半島では、韓国には1本も残っていないことが分かった(北朝鮮の樹は不明)。
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