1 『日本に所在する朝鮮金石文拓本目録』の作成を継続し、大東文化大学宇野雪村文庫、淑徳大学書学文化センターと東京大学工学部建築学研究室の所蔵拓本を追加した。 2 調査は前記の3大学のほか、多胡碑記念館(群馬県高崎市)そして2010年10月から12月まで韓国城南市の韓国学中央研究院に滞在し、同研究院蔵書閣、ソウル大学校と成均館大学校の博物館、国立中央博物館、慶州と扶餘の国立博物館において、劉仁願紀功碑、広開土王碑の拓本のほか新羅、高麗の古碑と拓本を調査し、碑字を検討した。また石碑の政治的メッセージ性を読みとった。 3 研究報告では、11月20日に韓国の蔚山大学校において、関門城碑の分析を含んで、「新羅時代の蔚山港口」を発表した。12月12日には九州大学において、劉仁願紀功碑の調査と解読の成果を中心として「劉仁願紀功碑の復元と碑の史料価値」を報告した。 4 研究成果の公開では、武田幸男著『広開土王碑墨本の研究』を金石学と近代史学史の観点から書評し、『歴史評論』誌の依頼に応えて同誌に掲載した。また、新羅と渤海の自己認識と対外関係の相関を金石史料(鐘銘、墓誌、塔碑)の分析から考察した成果を「日本と新羅・渤海」の題目で石井正敏ほか編『律令国家と東アジア』(吉川弘文館)に寄稿した。そのダイジェストを「朝鮮古代(新羅)の"近中華"意識の形成」として岩崎義則ほか編著『人文学I 東アジア世界の交流と変容』(九州大学出版会)に寄稿し、平成23年度前期に開講される本務校の「人文学I」にて、学生に講ずることとした。また、「劉仁願紀功碑の復元と碑の史料価値」の研究成果は『川勝守・賢亮博士古稀記念東方学論集』に寄稿中(平成23年9月刊行予定)である。 5 歴史学の観点から朝鮮古代・中世の金石文を調査・研究し、金石文には顕彰の意図に強い政治メッセージが込められていること、その為に金石文には毀損の人為が及ぶことを再確認した。 6 長崎西高所蔵の広開土王碑拓本の研究史的位置について西日本新聞(8月25日夕刊)に寄稿した。
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