「軍・憲兵の治安機能」という主題を構成する要素として、憲兵の社会運動抑圧取締、軍全般の思想対策と思想善導策、情報統制、民族独立運動・反満抗日運動の抑圧取締、治安戦・思想戦の展開、植民地・傀儡国家・占領地による治安体制構築の主導などがある。さらに言論活動の検閲取締、軍法会議での思想犯罪の扱い、陸軍刑法・海軍刑法などのなかの治安諸規定の制定と運用状況、占領地軍政中の治安体制の構築など、考えねばならない問題は多い。これらの問題群を一つずつ解明し、その構造・機構と機能・運用の実態を実証的に論じていくことが、第一の課題としてある。 そして、重要なことは、これらが総体として戦争遂行体制のなかでどのように位置づけられ、機能していったのか、ということである。それを問うことは、「軍・憲兵の治安機能」が全治安体制の「主翼群」の一つとしてどのような役割・位置にあったのか、ということに連なる。 本研究の特色は、治安体制の一翼・一環として「軍・憲兵の治安機能」をとらえることにある。そこで得られる知見・論点は、第一にこれまでの治安体制の理解に幅と奥行きを与え、私にとっての最大の課題である「戦前治安体制の全体像(そこには「大東亜治安体制」構想を含む)」構築の最終段階へと、押し進めてくれるはずである。第二に、従来の軍隊・軍事史研究に「治安」「思想」という新たな視点・論点を付け加えることになり、その軍隊観や政軍関係の理解を深め、近現代史上の軍隊の位置づけに修正を迫ることになるだろう。
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