本研究は、禅宗寺院やその塔頭(院家)に伝来した文書のうち、他者の手に渡って分散したため、全体像が不明な状態で各所に伝来している文書を集積し、本来の文書群に復元すること、および文書群再構成によって得られる新たな情報を活用して、個々の文書の研究をすすめることを目的とする。 1 本年度も引き続き禅院から流出文書の収集に努めた。対象は、(1)近世以降、禅院から分散した文書原本、および写本に書写された文書写、(2)中世末以降に生成され禅院に伝来する雑録類に書写された文書類の写、である。 (1)では、史料編纂所架蔵複製史料、とくに写真帳からの検索を進め、蒐集文書群を主たる対象とし、禅院伝来文書群なども加えつつ、網羅的に収集した。また一部文書が分散している京都鹿王院などで調査および写真撮影を行ない、禅院文書の伝存の現況を確認するとともに、分散した文書との関係を考察した。 (2)では、史料編纂所に架蔵しない雑録類の調査・発見のため、広島県仏通寺、岐阜県永保寺ほかで、調査のうえ写真撮影を行なった。 2 前項の成果のうえに、分散文書群および個々の文書の研究を進め、研究結果を公表した。分散した文書群を復元した対象は、天龍寺南芳院、南禅寺慈聖院(末寺美濃大興寺・天龍寺寿寧院等を含む)、同東禅院、同徳雲院、相国寺普広院、京都安禅寺、武蔵金陸寺等である。南方院については、個々の文書を文書群のなかで検討して南方院自体の性格を考察した。南禅寺慈聖院以下については、蒐集文書を翻刻したうえ、個々の文書を文書群のなかに位置づけ分析した。また京都鹿王院から一部流出した文書を蒐集、翻刻して鹿王院現存文書と比較検討し、京都長福寺から分散した文書の一部を翻刻・検討した。これらの事例研究の成果は、文書群復元により個別文書の分析を深める研究方法の実効性を証明していると判断している。
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