最終年度であり、構築したデータベースの充実とともに、データの分析検討と論文執筆を行った。その過程で近代数寄者の活動を把握できる高橋義雄『万象録』(全8巻)、佐々木三昧『茶の道五十年』、『高野山霊宝館建設報告書』、『高橋箒庵翁編纂大正名器鑑完成慰労会記』などの資料類のデータベース化も進めた。なお、20点程度であった近代以降の「茶会記」は本研究で75点確認した。 21年度は、昭和初年から根津嘉一郎が死去する昭和15年までを検討期間とし、第二世代、第三世代に属する近代数寄者の最晩年の活動と、第四世代の析出を課題とする論文「近代数寄者の世代交代-第四世代の登場-」と、資料調査活動で収集できた資料類を使用して、これまでは近代数寄者研究がほとんどなされていなかった関西、中京、金沢の三地域における茶界の実態を明らかにした論文「近代数寄者の地域的展開-関西・中京・金沢-」の2本を発表した。 前稿では昭和期になると三井財閥を核とする近代数寄者のネットワークの崩壊がはじまる一方で、学者・芸術家のインテリ層の茶界への進出がみられ、さらに、女流茶人の著しい台頭を確認した。後稿においては、関西地域では東京ではほとんど見られなかった近代数寄者と諸流家元との交流が顕著であり、中京地域では富田重助を核とする実業家グループと、道具商が中心である敬和会グループが重層的に展開し、さらに、金沢地域の近代数寄者は商人層であったなどが判明した。 なお、小林一三、松永安左衛門、畠山一清、仰木政次などの「茶会記」を使用し戦後段階の近代数寄者のネットワークを析出する論文「(仮称)近代数寄者の終焉」の執筆を進めている。
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