本年度は、第一に、名古屋市大須観音真福寺文庫所蔵の「東大寺具書」「醍醐寺初度事書」「醍醐寺初度具書」「太政官府類」の翻刻、および、東寺観智院・東京大学史料編纂所所蔵の写本との校合を行い、さらに『続群書類従』所載の「東大寺具書」「醍醐寺初度事書」「真言諸山符案」との校合を行った。これらはいずれも鎌倉末期正和年間の東大寺と醍醐寺との間で繰り広げられた真言宗本末相論に関連する史料である。今年度の調査により、東寺観智院にこの相論の最初に出された東大寺初度訴状が存在することがわかり、原本調査を実施した。また、真福寺文庫所蔵「醍醐寺初度事書」「醍醐寺初度具書」には紙背文書があり、特別に許可を得て紙背文書の撮影と調査を実施した。これらの調査研究により、三度にわたって朝廷において繰り広げられた本末相論の訴陳状とその具書の全貌が復元できたと考えられる。真福寺文庫調査の過程で見いだされた断簡についても検討を加え、訴陳状全体での位置を推定することができたと考える。これらの研究成果は『真福寺善本叢刊古文書集二』(臨川書店)として平成20年4月に刊行される。 第二の成果は、東大寺戒壇院関係史料、とくに長老凝然の自筆聖教紙背文書の調査研究を行ったことである。東京大学史料編纂所には写真帳で凝然自筆聖教紙背文書20冊が架蔵されており、その調査研究を四分の一ほど行うことができた。また、その他、戒壇院に関する史料調査を東大寺図書館において実施した。これらは次年度においても継続して調査する予定である。なお、これに関連して東大寺において第六回「ザ・グレイト・ブッダシンポジウム」で研究発表を行った。 第三の成果は、室町時代の東大寺東南院門跡を知る上で必要な「東南院擾乱紛起抄」(東京大学史料編纂所謄写本)の調査を行ったことである。これは鎌倉末期以降の東南院および東大寺全体を知る上でも欠かせない史料であり、今後、内容分析を行いたい。
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