本年度は当初の計画に従い鎌倉末期から南北朝・室町期における東大寺東南院およびその周辺の歴史過程と、その過程で生み出されてくる史料(テクスト)の分析を行った。鎌倉末期の東大寺と醍醐寺との間で繰り広げられた本末相論の訴訟史料は『東大寺本末相論史料』(『真福寺善本叢刊』10、臨川書店、2008年)として刊行できたが、引き続き、室町時代の随心院所蔵の「東南院擾乱粉起抄」(東大史料編纂所謄写本)の調査を行い、翻刻を行った。南北朝期の東南院については引き続き調査中である。同時期の東大寺戒壇院についても史料調査を行い、華厳宗・真言宗と律宗が兼学される中世戒壇院の様相について、私なりの見通しを得て「鎌倉後期の東大寺戒壇院とその周辺」と題して『ザ・グレイトブッダシンポジウム論集第六号』に掲載した。東大寺のみならず日本仏教史の叙述において重要な位置を占める戒壇院院主凝然の著作、および、紙背文書については東大史料編纂所架蔵写真版「東大寺凝然自筆聖教紙背文書」の調査を行った。このほか大須観音真福寺文庫所蔵の聖教調査を行い、東南院関係の紙背文書の翻刻作業を行った。その成果は、いずれ発表する予定である。興福寺については『御寺務部』および『類聚世要抄』の翻刻を進めつつある。なお、東大寺の史料収集の一環として、京大所蔵の「東大寺宝珠院文書」と「東大寺図書館所蔵文書」の一部を写真版で購入した。
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