本年度は、寺院テクストが中世に於いてどの程度存在するのか、どのような時代分布を示しているのかを第一に検討した。具体的には『群書類従』『続群書類従』『国書総目録』に収載されている縁起・記録・資材帳・年中行事の名称を持つ史料をすべて抽出し、エクセルにデータを集積し、時代別の傾向を知るため50年ごとに分布状況がわかるようにした。その結果、16世紀前期がもっとも多くそれに次いで14世紀前後半期、次いで15世紀前期・16世紀後期・13世紀前期・12世紀後期に分布することがわかった。このデータは収録データの限定性や作成年代の不明なものの処理など、問題が残されてはいるものの、大まかな傾向を示していると考える。今回の科研の研究は16世紀前半期がなぜピークとなるのか、その歴史的背景について考察することを目的としていないが、今後の課題として注目しておきたい。科研の主要テーマは第二のピークである14世紀における寺社テクストの成立の理由とその歴史的背景を解明し、それらのテクスト、記録・縁起・絵詞などが相互に連関しているのではないかという仮説のもとに行われている。現在、史料を収集し分析の対象としているのは東大寺・興福寺・醍醐寺・東寺・延暦寺などであるが、東大寺と東寺についてはこれまでの研究史の成果を考慮すれば、この仮説は鎌倉末期の寺社興行政策を契機とし、それによって発生した寺社の自己正当化の主張によるものであることはほぼ明らかになったといえる。現在、個別史料の収集と検討の最中であり、今後はできるだけ他の寺社についても考察を広げていくことが重要であると考えている。本年度調査した機関は東大寺図書館、京都府立総合資料館、東京大学史料編纂所、京都府立総合資料館、京都大学博物館、名古屋市大須観音(真福寺)である。
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