中世の寺社では数多くの「縁起」「記録」「要録」「由緒」などと称される寺社の創建の由来、その後の造営、修理の歴史、年中行事、所領などを記述したテクストが多く作成された。こうした寺社テクストについて先ず、古代から近世にかけて、全国的にどのような時期的分布を示すのかを検討するためのデータベースを作成した。その結果、テクストの成立時期には時代的特徴が見られることを見いだした。中世前期には古代的要素、国家との関連で作成される寺社テクストがまだ多く見られること、中世後期には寺社造営のための勧進活動との関連で多く作成されることを見いだした。次いで、東大寺を取り上げ、鎌倉末期に東大寺が八宗の本所であり、また真言宗の本所であることを他寺院や朝廷・幕府に主張するために『東大寺記録』が作成されること、その作成が醍醐寺などとの本末相論の過程で認識され、創作されていった東大寺の歴史・記憶であることを、具体的に訴訟文書やその過程で集積された文書集との関連で明らかにした。また、この検討のために『太政官符類』『東大寺具書』などの真福寺文庫所蔵の寺社テクストの翻刻と原型復原を行った。
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