江戸時代に伊勢参詣と西国巡礼を行った旅人の旅日記=道中日記の所在調査を進め、群馬県立文書館、茨城県立歴史館、静岡県立歴史情報センター、沼津市立歴史民俗資料館等で新たに25点の道中日記を見出した。また関連史料として書肆が刊行した道中案内記、大坂の旅籠屋らによる定宿帳、旅籠屋と連携しつつ地域的に形成された講帳、旅籠屋の宣伝チラシ・引札類も合わせ調査し、上記機関のほか国立国会図書館、島根県立図書館等で調査・収集を行った。 伊勢参宮後に熊野街道を辿った道中日記をこれまでに260点確認したが、その出身地は関東・東北地方で四分の三を占める。内容は形式化した記述が目立ち、実際に見聞していないことも含む。こうした点を踏まえ地域史研究に用いるための方法について検討し、論文にまとめ、交通史研究会例会において報告した。また関連史料も含めて当時の旅文化を支えたシステムについての検討を進めている。 地域史料からのアプローチとして、尾鷲組大庄屋文書の財政帳簿に記載される貧しい旅人への救済記録を分析する作業を進めた。江戸中期から幕末にかけて6000件の救済記録があるが、それらを地域・時期・旅の目的・男女・身分などの要素で分け、検討している。その成果の一部は「江戸時代の貧しき旅人と地域社会-尾鷲組大庄屋文書から-」と題して、三重大学人文学部・伊勢湾熊野地域研究センターの研究会において報告した(5月29日)。また三重県教育委員会が行った熊野街道沿い(東紀州地域)の石像文化財調査に助言者として参加し、独自の調査をも行い、共同で報告書『三重県石像物調査報告I』を作成した。
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