本研究は戦争と災害という視点から畿内・近国社会からみた幕末期論の構築を目的とするため、それに関わる史料を収集した。具体的には、早稲田大学図書館所蔵「服部文庫」の尼崎藩財政関係史料、尼崎藩大庄屋岡本家文書の幕末期触留帳、旗本領摂津下坂部村沢田正雄家文書の幕末関係御用状・御用留のマイクロフィルム撮影・紙焼きである。これらの史料からは多くの新知見が得られたが、たとえば「服部文庫」と岡本家文書からは財政破綻状態にあった尼崎藩が、摂津国内ではなく、飛び地領である播磨国内で木綿以外にもさまざまな専売制を模索していたことが知られた。従来、尼崎藩研究において播磨国内の飛び地領についてはほとんど位置づけられてこなかったが、藩財政に占める飛び地領の意味を考えるための新知見といえる。またいち早く新政府軍に占領される畿内・近国旗本領の動向も幕末期論として位置づけられてこなかったが、旗本が新政府から所領が安堵されるように懸命の政治工作を進めていたこと、その政治工作の担い手が所領にいた在地代官であったことなどが知られた。幕末期論だけでなく、旗本論としても意義深い事実の発見といえる。これらの成果をふまえると、譜代大名・旗本にとっての幕末期という論点も構築できると予想される。以上、本年度は幕末期における畿内・近国領主の動向を明らかにすることに主眼をおき、一定の成果をあげることができたので、次年度は地域社会の動向が知られるような史料収集と研究を進めていく。具体的には災害対応に関わる史料の収集と研究を進めていきたい。
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