日本中世史における「職」や安堵の研究をたどると、蓄積は厖大であるが、その成立の過程の探究は閑却視されている。特に「職」の補任と所領安堵との関係解明は、中世武士政権の主要施策としても不可避の研究課題である。今回の研究では、古代史の側から土地公証制度を媒介として、中世的「職」と安堵成立の前提となる諸条件を探ることを目的に史料の収集と分析を進めた。 具体的には、律令制のなかでも、賦役令の課役免除の規定(舎人史生条)に着目し、唐令と比較しつつ、日本令では雑役免除により朝廷への奉仕の体系が作られていること、荘園公領制の広がりとともに「職」は全国に拡大するが、その理由には、11世紀の別名の形成に伴う在地所司が広く補任され、それが「職」の全国的分散を促し、在来の秩序を補任に求める慣習も成立、朝廷、国衙、領主からの安堵として慣習化してゆくと結論づけた。 その研究過程では、(1)土地公証に関わる平安時代文書を網羅的に採訪、収集するとともに、(2)購入した文献により近代史学における安堵研究の軌跡をたどり、比較法制史学から発展した研究において必ずしも、前代の古代史からの連関が解明されていないことを明らかにし、(3)安堵と密接に関わる「「職」の補任に関わる国衙・在庁史料と家政機関関係史料の補任史料の収集分析・整理に努めた。その結果、(4)「職」の本質が課役免除にあることを指摘して、社会内における「ゆるやかな官職体制」の存在を想定、前代の官人特権に安堵の淵源があることと結論づけた。以上の成果は研究成果報告書として刊行した。
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