今年度は、まず近世摂津・河内地域における治水体制を考察する上で重要な近世畿内近国支配論の研究史整理を行った。国役普請をはじめとする治水策は、当該地域の支配の特質を抜きに考えることが出来ないからである。この研究成果は、「近世畿内近国支配論を振り返って-広域支配研究の軌跡-」(『歴史科学』192号、2008年)として発表した。 次に、堤防と堤防に挟まれた地、すなわち堤外地の土地利用に対する規制策について検討した。この部分の土地利用は、水の流れに大きく影響し、治水とも深いかかわりを有しているからである。具体的には、17世紀に幕府が摂河両国の治水政策を進めるにあたり、堤外地の土地利用についてどのような姿勢で臨んだのかを、淀川を主要な考察対象に、時期的変化に留意しながら検討した。その結果、17世紀末に河村瑞賢らによって行われた貞享期畿内河川整備事業段階から、本格的な堤外地土地利用規制が行われるようになったことが明らかになった。この成果は、「一七世紀摂津・河内における治水政策と堤外地土地利用規制」(『枚方市史年報』第11号、2008年)として発表した。 また、近世の淀川治水の歴史について検討した。具体的には、豊臣期の宇治川流路変更から18世紀初期の国役普請制度の変更までを主に取り上げ、国家による淀川治水事業の展開を歴史的に考察した。これまで、歴史学の立場から近世の淀川治水史を通観したものはなく、今回の試みはその最初のものといってよい。今年度はその成果を原稿化したにとどまったが、来年度早々(2009年4月)に、『日本史リブレット93近世の淀川治水』として山川出版社より刊行される予定である。
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