初年度の研究は、「研究の目的」および「研究実施計画」に基づき、まず長州藩の藩祖祭祀の論稿を発表することを中心に進め、さらに他藩の藩祖顕彰研究の下地となる基本的な調査を行うことができた。具体的には以下のようなことを実施した。 (1)長州藩の藩祖祭祀・招魂祭・楠公祭祀 長州藩の藩祖祭祀については、現在論文を「幕末萩藩における祭祀改革と「藩祖」」(吉川弘文館より論集として発刊予定)として校正しており、20年度内には発刊の予定である。これにより、従来ほとんど言及されてこなかった複雑な歴代藩主の祭祀(仏教・神道・儒教)を萩藩がどのように実施し、そして幕末期どのように改革して「藩祖」を位置づけようとしたのかを明らかにした。しかし、招魂祭と楠公祭については史料が少なく、現在東京招魂社の創設にかかわり、幕末諸隊をひきいた大村益次郎や他藩の楠公祭の史料を収集しているところで次年度にその史料収集と分析を実施することとしたい。 (2)「復古」の潮流とその思想的基盤に関わる予備調査 当初重要な調査史料所蔵機関として予定していた東京大学中料編纂所が、急な建物の改修によって当面使用できなくなった。これにともない、調査の方法を改めざるを得なくなった。そこで、急遽鳥取池田家の祖先顕彰の史料調査を実施した。国立公文書館所蔵の「池田氏家譜集成」の調査を集中的に行い、分析を進めているところである。これは、鳥取藩の祖先顕彰に関わる問題であることはもちろん、池田冠山をとりあげることでその思想的基盤についても研究することができる。東京大学史料編纂所の改修のめどが立っていない以上、こうした大名家の史料の収集と分析が、次年度も急務となると思われる。
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