本年度の成果は、「幕末萩藩における祭祀改革と「藩祖」」(井上智勝・高埜利彦編『近世の宗教と社会2国家権力と宗教』吉川弘文館、2008年7月、pp135-158)を発表したことで、ここでは幕末の祭祀改革における藩祖の地位付けを検討した。これは、本科研の研究課題(1)の成果で、長州藩の持つ独自の祭祀のありかたを、天保期から安政期にかけて行われた仏教の藩祖祭祀改革のなかであきらかにしたものである。しかしながら、幕末期から維新期にかけての「藩祖」の問題は、長州藩の戦争過程と神仏分離の問題などとあわせて検討しなくてはならず、長期の調査と費用が必要なため課題として残った。 また、大名家については、国文学研究資料館(真田家・蜂須賀家)、福岡市立博物館・秋月郷土館(黒田家)、芭蕉の館(大関家)の調査を行った。これは研究課題(2)の長州藩だけに限らず、広く諸大名のなかに「復古」の潮流を見出そうとするためのものである。真田家の史料は膨大であり、まとまったものが少なく祭祀に関しては今後も継続的な調査が必要である。次に、蜂須賀家や黒田家についてはまとまったものもあり必要な史料を収集することができた。大関家に関しては、著名な「創垂可継」に関わる貴重な史料を閲覧・撮影させていただき、多くの知見を得ることができた。 その他、大名家の史料は、おもに自治体史などを中心に文献の収集などを精力的に行い、史料を蓄積しつつある。だが、藩祖顕彰の思想的な基盤については来年度も継続的に調査を行う必要がある。
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