昨年度の明治維新史学会大会での研究の総括報告を踏まえ、今年度は長州藩以外の諸藩を視野に入れながら政治改革の特質を、「連携する大名-制度改編と諸藩の自己変革」(名古屋大学近現代史研究会大会)として報告した。単純な諸藩の改革の比較ではなく幕府の制度改革の流れのなかで位置づけたもので、専門家からの忌憚のない意見等を受けた。昨年度と本年度の全体に関わる研究報告を実施したことで、今後の方向性と課題を確認することができた。 また、本年度は、東北地方の弘前藩(弘前市立図書館)・盛岡藩(盛岡市中央公民館)の調査を実施して資料を補うとともに、昨年度の流行病で海外渡航を断念した海外資料の収集を、東京大学史料編纂所等の調査で補足した。これにより、19世紀初頭の諸大名家に通底する藩祖顕彰のなかに潜む歴史意識をさらに深化させることができたのではないかと考えている。 本研究の成果は当初予定していた報告書ではなく一般書店からの著書として出版し学界に問おうと執筆を行っている。現在、出版助成申請に向けて準備を進めているところである。 こうした成果を得るなかで、今後の課題も大きく二つ浮上してきた。第一に、海外資料だけでなく分析方法の理論的な側面での補強が必要なことで、これはフランス革命以降の政教分離をめぐる研究などが重要であると考え、専門家との講読会をはじめた。第二に、藩祖顕彰の研究が、戦死者祭祀だけでなく19世紀全体の神仏分離の動向、とくに明治維新以降の政治と宗教との関係という視点においては不可欠ではないかという新たな課題が浮上してきた。これは、新規の科学研究費補助金に申請しているところであるが、採択されなくても少しずつ進めていく予定である。この二点の課題を積み上げていくことが、藩祖研究だけでなく、さらに19世紀の政治と宗教・儀礼・祭祀という関係性をひも解いていく重要な課題であると確信している。
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