大きな成果としては、商業出版による通史シリーズの一巻ではあるが、単著『文禄・慶長の役』(吉川弘文館刊、「戦争の日本史」一六)が刊行された。大陸侵攻(朝鮮出兵)の記録・記憶化を論じたわけではないが、前提となる戦争の全貌について採り上げたものであり、本研究課題の重要な指針となる。初年度ということで、平成十九年度は研究の基盤整備を中心に進めた。書籍としては豊臣期の記録を数多く収録する『改定史籍集覧』、近世大名家の由緒を語る『寛政重修諸家譜』など基礎的資料の収集を行った。一方で、国文学研究資料館・国立公文書館などでの史料収集を積極的に実施した。国文学研究資料館で収集した『徴古雑抄』についてはデータ整理を行った上で、論考として九州大学・九州文化史研究所紀要に発表した。また、国立公文書館では内閣文庫に伝わった「文禄・慶長の役」関連の資料を中心に精査を進め、必要部分については複写資料を入手した。具体的には、『朝鮮征伐記』・『朝鮮軍記大全』・『征韓偉略』といった近世段階における戦争認識に関わる資料である。今後詳細なテキスト分析を進め、近世において豊臣政権の大陸侵攻(朝鮮出兵)がどのような文脈のもと、その記憶が再生産されていったのかを検証する単著としたい。今年度は東京大学史料編纂所の閉鎖、国文学研究資料館の立川移転を前にした閉館といった事情があったため、申請時の研究計画を変更せざるをえなかったが、上記のような研究実績を挙げることができた。次年度以降は、ここでの基盤・環境整備をうけて、より深く課題への接近を計りたい。
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