今年度は前年度に引き続き国立公文書館・国立国会図書館を中心に豊臣政権・豊臣秀吉・「朝鮮出兵」などに関する未刊行資料の調査・蒐集を計った。これまでの調査によって集積した『豊臣秀吉譜』『朝鮮征伐記』『朝鮮太平記』『征韓偉略』『朝鮮戦談』『征韓紀略』などの基本資料に関するテキストクリティークを進めている。近世のものについては資料収集も一定の段階に達しているので、具体的な分析を開始した。朝鮮出兵とほぼ同時代の記録にみえる言説については「「取り沙汰」される「唐入り」」と題して論文にまとめ、朝鮮出兵の関する風聞や噂について分析し、後世の歴史叙述に与えた影響について論じた。また『武家事紀』などで「朝鮮出兵」に大きな比重を与えている山鹿素行については公開シンポジウムで、その思想史的位置づけをおこなった。報告内容については九州大学韓国研究センターから5月以降に書籍化されることになっているが、ここでは素行の日本中朝主義に触れ、彼が近世における「朝鮮征伐」史観に基軸を与えた人物であるとの評価を試みている。22年度も引き続き他の思想家を取り上げて「朝鮮出兵」に関する言説をおうが、21年度は「駅戎概言」をまとめた国学者本居宣長について粗稿をまとめることができた。さらに幕末にいたって、後期水戸学の比重がましてくるが、後期水戸学についても国立公文書館・国立国会図書館などでの資料収集はほぼ完了しており、この後の分析対象となっている。 また、耐震工事で閉鎖中であった東京大学史料編纂所が21年度末には再開されたので、関係資料の状況を具に実見し、22年度調査の方針を確定させた。以上が21年度の研究実績の概要である。22年度は最終年度であり、これらの実績を踏まえ研究の完結にむけて努力していく。
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