本研究の主眼は「朝鮮出兵」についてのこまかな実証研究を積み重ねていくと同時に、この戦争がどのように記録され、近世以降どのように記憶・伝承されていったのかを検討することにある。最終年度にあたる平成22年度は、研究の包括的なとりまとめをおこなった。 日韓歴史共同研究の場で、「朝鮮出兵」の学説史についてまとめる機会があったので、これをベースに近世から近現代に至る研究史をまとめた。概括的ではあるが、本研究のひとつの到達点である。さらに、その過程で山鹿素行およびその著作である『武家事記』の画期性があきらかとなったので、モノグラフをまとめた。論考のかたちで結実したのは、この二編であるが、近世後期の思想状況については本居宣長の『馭戎概言』、『征韓偉略』に代表される後期水戸学の思潮などについても執筆を終え、『歴史学研究』の戦争を特集する企画に掲載される予定である。 主要な調査対象地である東京大学史料編纂所が研究期間中に耐震工事によって閉鎖され、当初の研究内容や方法に変更を生じる必要が生じたものの、近世段階における「朝鮮出兵」の記憶と記録化、および思想動員のかたちについては、ほぼ考究しえたものと考えている。 今後は、近代以降を主対象とするかたちで研究を継続し、「朝鮮出兵」の学説史と時々の国家戦略・外交方針、社会状況を相関的に見通す、著作の完成に努めたい。
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