本年度は、第一に、雑誌『同仁』・『同仁会医学雑誌』の論文の読み込みを行った。その中で、中国における医療に日本から派遣された医師が実施した調査・研究の内容や中国人の診療にあたっての感想、そこに見られる中国人観・中国観が明らかになった。彼らは、占領地の広がりとともに、軍より宣撫医療が要請されるが、治療のための人材や薬や器具は不足していたことや、戦禍とともに伝染病が広がり、防疫の目的で一般住民に対して強制的隔離や、強制的予防摂取などの措置を行っていたことがあきらかになった。その成果の一部が、末永恵子著「日中戦争期の同仁会による対中国医療支援」(『日本の科学者』44巻8号、2009年)である。 第二に同仁会の経済的背景を分析するために、外務省外交史料館を訪れ、外務省の補助金関連の資料を閲覧した。特に、いままで明らかになっていなかった興亜院と大東亜省所管時代の予算規模の史料が存在していることがわかり、これによってほぼ通時的に予算の推移を追うことができた。その報告は、末永恵子「日中戦争期における対中国支援事業の変容」、宮城歴史科学研究会大会報告(2009年9月26日、東北学院大学土樋キャンパス)で行った。 軍医部の衛生業務報告書などに目を通し、軍と同仁会の医療目的や医療の実態の違い、共通点に着目し、共生と棲み分けの状況についても把握が進んだ。また、同仁会医院が設置された中国各地の地域についても理解を深めるために、関連の論文等を取り寄せて読解中である。
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