本研究は、治承・寿永内乱期の戦争のなかから形成された鎌倉幕府権力が、いかなる政策や行事の遂行によって、内乱期における敵・味方の関係を清算し、平和状態を実現・維持していったのかについて解明することを目的とする。研究の初年度にあたる本年度は、まず基礎的作業として、I「敵方武士の赦免の問題」、II「敵方張本の遺族の保護の問題」、III「味方の戦死者遺族と負傷者の保護の問題」に関する史料検索・収集を集中的に実施することとした。 本年度に検索・収集対象とした史料類は、『吾妻鏡』・『保元物語』・『平治物語』・『延慶本平家物語』・『承久記』・『真名本曾我物語』であり、それらのなかからI〜IIIに関するものをパソコンに入力し、一覧表に整理した。厳密な分析は、次年度以降の作業となるが、現時点で得られた見通しとしては、奥州合戦終了後の建久年間(1190〜99)に幕府による敵方武士の赦免政策、御家人登用政策が打ち出されること、敵方張本の遺族の保護は内乱の最中から進められていること、などが判明した。 また本年度は、現地調査として、木曾義仲軍と平氏軍が戦った越中倶利伽羅峠古戦場(富山県小矢部市)と、伊勢平氏平田家継・平貞能兄弟の本拠地である平田城跡・新大仏寺(三重県伊賀市)の現地調査を行った。特に新大仏寺には、元暦元年(1184)に平田家継と戦って討死した敵方の佐々木秀義の塚と伝えられるものが現在も祀られており、敵方張本の供養を伊勢平氏が行ったことに由来する重要な遺跡と思われる。今後もより詳細な検討を行っていきたい。 本研究に関わる成果として、本年度は『地域社会からみた「源平合戦」』以下4点の図書を執筆した。いずれも治承・寿永内乱期の戦争とその後の秩序回復を、具体的に検討じた研究である。
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