本研究は、治承・寿永内乱期の戦争のなかから形成された鎌倉幕府権力が、いかなる政策や行事の遂行によって、内乱期における敵・味方の関係を清算し、平和状態を実現・維持していったのかについて解明することを目的とする。研究の2年目にあたる本年度は、前年度に収集を行った、I「敵方武士の赦免の問題」、II「敵方張本の遺族の保護の問題」、III「味方の戦死者遺族と負傷者の保護の問題」の関連史料の分析・検討を進めるとともに、IV「村落の勧農、復興政策」、V「敵・味方を問わない鎮魂・供養」の史料検索・収集を行った。 本年度に検索・収集対象とした史料は、鎌倉幕府が編纂した『吾妻鏡』を中心として、『保元物語』・『平治物語』・『延慶本平家物語』・『承久記』・『真名本曾我物語』などの文学作品、『平安遺文』・『鎌倉遺文』収載の古文書類、『玉葉』・『山槐記』・『吉記』などの古記録類であり、収集した関連史料を複写してファイルに整理し、その概要をパソコンに入力した。その作業の過程で、戦後処理としての村落の勧農、復興政策は、東国・北陸・九州・畿内西国・奥羽などの地域によってその形態に違いがあること、建久6年(1195)に落慶供養が行われた東大寺大仏殿の再建事業は、内乱戦死者の鎮魂・供養としても大きな意味をもっていたこと、などの見通しを得ることができた。 また本年度は、現地調査として、有力な平氏家人でありながら鎌倉軍との和平に応じようとし、戦後、鎌倉幕府御家人の宇都宮朝綱を頼って関東に下向したとされる平貞能の関連史跡を調査し、妙雲寺(茨城県那須塩原市)の貞能伝説は一定の史実を反映しているとの知見も得た。 本研究に関わる成果として、本年度は編著『歴史と古典 平家物語』以下2点の図書を執筆した。
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