本研究は、治承・寿永内乱期の戦争のなかから形成された鎌倉幕府権力が、いかなる政策や行事の遂行によって、内乱期における敵・味方の関係を清算し、平和状態を実現・維持していったのかについて、解明することを目的とする。研究の最終年度にあたる本年度は、昨年度までに収集を行ったI「敵方武士の赦免の問題」、II「敵方張本の遺族の保護の問題」、III「味方の戦死者遺族と負傷者の保護の問題」、IV「村落の勧農、復興政策」、V「敵・味方を問わない鎮魂・供養」の史料群を検討するとともに、東大寺大仏殿再建供養などに見られる公武両政権による平和政策や、赦免された敵方武士にまつわる寺社縁起類などにも目を配り、より網羅的な史料収集と検討を行った。 その結果、鎌倉幕府は治承・寿永の内乱の戦後処理として平和政策を展開しただけでなく、戦闘中から平氏軍との和平を実現しようとする政治姿勢をもち続けており、その担い手が幕府軍では土肥実平、平氏軍では平貞能であったと考えられること、そして、そのような和平をめぐる動きと並行して上記I~Vの政策が展開していること、また、幕府軍が平氏の滅亡を志向したかのような歴史認識は、『平家物語』や『建礼門院右京大夫集』など特定の文化圏で創出された言説と考えられること、などの見通しを得た。 さらに本年度は現地調査として、平氏軍で和平交渉の窓口となった平貞能の伝承をもつ茨城県城里町の小松寺や、同行方市の万福寺の現地調査を行い、内乱後に宇都宮朝綱を頼って関東に下向し、鎌倉幕府から赦免された貞能の足跡を検討した。 本研究の成果として、本年度は図書1件、雑誌論文1件、学会発表2件を公表した。
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