今年度は平安中・後期の日中関係の展開を考える前提として、遣唐使の特質、特に唐文化移入におけるその役割・実態について検討を加えた。その成果は『白山史学』に投稿し、審査の上、掲載される予定である。また円仁の入唐記録『入唐求法巡礼行記』の最善本である東寺歓智院本の写真版を入手し.遣唐使事業の終末期から遣唐使以降の日中関係の様態を考える手がかりを得ることができたので、その知見も今後論文化していきたいと考えいてる。次に文献学的研究の主軸となる入宗僧成尋の入宗記録『参天台五壹山記』に関しては、入手済みの東福寺本の写真版をもとに、読み起こしと訓点付けの作業を進め、大学院生をアルバイト雇用して入力作業を行ってきらった。全8巻のうち.5巻分について入力済みであり.核正も行っている。この『参天台五壹山記』の核訂本作りに関連して.京都・奈良方面に出張を行い.写本の関覧・対校などを実施した。また成尋が入宗前に一時滞在した備中国新山(岡山県総社市)の現次を知るべく.踏査に赴き."西の叡山"とも称された山岳修行の場の様子を知ることができ.成尋滞在の理由理解の上で大いに役立った。そして、この成尋の入宗に至る入宗僧の系譜を探るべく.遣唐使以降の日中間の通交を担った寛建、日延、〓然、寂照、また成尋の次に入宗した戒覚などの事績を検討すべく.史料取集を行い.平安中・後期の日中関係のあり方を考察するための基礎史料の分析にも努めており.その成果は報告書作成時に.論文として掲載したいと考えている。
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