今年度は最終年度にあたるため、研究のまとめと報告書作成を行った。遣唐使の特質に関しては、前年度の成果を学術雑誌に掲載し、留学生の様態や唐文化移入の特質を整理するとともに、著書出版の機会を得たため、従前の研究成果と合せて、7世紀の律令体制構築と遣唐使との関係や承和度遣唐使に関する論考をまとめて、新稿として掲載することができた。この著書は遣唐使事業を通史的に俯瞰したものであり、古代日本の対外政策という視点から、新羅・渤海など朝鮮諸国との通交にも言及し、東アジアの中での日本の遣唐使の特色を明らかにすることができた。遣唐使研究の再検討という研究目的の一つを果たしたものである。 また10世紀以降の東アジア諸国との通交に関連して、古代日麗関係について史料を通覧し、主要な論点に対する私見をまとめて論文として投稿し、『海南史学』46号に掲載することができた。10世紀以降の日中関係を検討する上でも同時期の東アジア情勢を理解することが肝要であり、成尋の入宋とも関連する宋と高麗の関係を理解する一助になるものである。 そして、成尋の入宋や『参天台五臺山記』に関しては、検討し以降成尋入宋に至る渡海僧の系譜と関係史料を集成して分析を進め、高知大学で開催された国際シンポジウムで報告を行うとともに、その研究成果を論文化して報告書に掲載することができた。その報告書は全256頁の冊子体のものを作成し、東福寺本の読み起こしに基づく『参天大五臺山記』の校訂本(案)や日々の記事の概要を摘記した「日々要略」などを掲載しており、今後の研究基盤となる史料を学界に提供し得たものと考えている。なお、これらの研究遂行に関連して、写本の調査や成尋が入宋前に一時期滞在した備中新山別所、渡海僧と関係する延暦寺などの踏査に赴き、作業の進展や「場」のイメージ獲得に有益であった。
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