本年度は、1.「御広間雑記」のデジタル化と項目データ作成作業、2.地域神社の動向調査、3.白川家文献調査の三点を計画していた。1.については地名・神社名を掲載することを基本として基本的なデータを作成してきた。しかし、『吉田神道家「御広間雑記」の記載項目のデータベース化と神道記録の研究』(平成15年度〜17年度科学研究補助金報告書)で試験的に神職名なども詳細に記載して報告したところ、いくつかの研究文献で引用され、高い評価を得た。詳細なデータベースに対する期待が高く、データ量は膨大になるが、いったん立ち戻ってデータの追記をすすめ、より利用価値の高いデータベースに改めていくことを検討したい。2.では、奈良の春日大社に関する調査から、祭礼の由緒をめぐる言説を分析し、論文を2本上梓した。17世紀後半の寛文法度が出される前後に神職の意識が高まり、興福寺が創始した祭礼の由緒を否定するような言説を生み出してきた。町人絵師の藤村惇叙が春日若宮祭礼を紹介した『春日大宮若宮御祭礼図』の内容は、この動向をふまえた18世紀の奈良の言説下で作成されていたことがはじめて明らかになった。調査の過程で、春日大社や興福寺・東大寺などの寺社史料が奈良奉行所から奈良町民に広がり、地誌の作成に影響を与えたことが明らかになったので、寺社と町の関係についてさらに調査を加えて深めていきたい。3.白川家日記の調査では、18世紀前半の学頭臼井雅胤の動向に注目したが、断片的な内容にとどまっていたので、次年度あらためて別の史料を調査することにしたい。また、白川家の学頭になる平田篤胤の動向についても、彼の思想形成が、彼の下総旅行と密接にかかわっていたという新たな論点を見出すことができたので、論文として公にする予定である。
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