本年度は、昨年度に引き続き、沖縄の地方文書を利用しての研究を進める一方で、新たに、分担研究者に林譲氏、研究協力者に生駒哲郎氏を加わえ、東京大学史料編纂所に架蔵される写真帳・影写本を利用して、内地寺院が所蔵する、近世期の琉球寺院関係文書の目録作成を開始した。近世期の琉球僧は、真言宗は高野山へ、臨済宗は妙心寺へと留学する傾向が高いことから、本年度は、両寺院の文書を調査し、これまでに300点近くの文書の目録化に成功した。内地寺院が所蔵する近世期の琉球寺院関係文書を利用した研究は、これまで皆無であるため、この分野では、今後の研究の大きな進展が見込まれる。 沖縄の地方文書を利用した研究では、「近世琉球社会における臨済宗寺院と葬送・追善仏事」(『立正史学』105)、「久米島上江洲家所蔵寺院関係文書について-観音霊籤の被占者と年次の検討を中心に-」(『久米島自然文化センター紀要』10)の二稿を公刊した他、久米島では位牌調査4家、近世文書調査1家、渡嘉敷島では位牌調査1家、近世文書1調査家、沖縄本島首里の旧士族1家の骨壺銘文調査を行った。全て新出の史料・資料である。これらの資料・史料に含まれる戒名について分析することで、近世期の寺院の社会的機能の一側面を浮き彫りに出来ると予想される。位牌や骨壺は、文書以上に、当該家の信仰と密接に関わっていることから、その調査は当初、困難が予想されたが、特に久米島では、美済氏会の協力を得て、予想外の進展が見られた。但し、当該家における信仰の対象を調査していく以上、確実な研究成果をあげ、その成果を各家に還元してゆく必要がある。本分野の調査を来年度も継続し、これらの中、沖縄本島分1家については、本年度の『沖縄工業高等専門学校紀要』で発表を予定している。
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