本年度は、研究計画の最終年度として、これまでに収集した書記官僚のためのペルシア語書記術手引書の詳細な書誌データの総合的な整理に取り組んだ。その結果、ペルシア語官僚技術の発展・成熟が見られた14世紀末までの、現存するペルシア語書記術指南書文献史料に関して、その写本情報・歴史的背景を踏まえた書誌情報・内容構成の詳細を含む、ペルシア語書記術史料文献目録の基礎がほぼできあがった。加えて、昨年度から推進してきた、書記術手引書に見える伝統的ペルシア語書記術・書簡儀礼の規範と理念に関するデータの抽出・蓄積の作業も継続して行い、ペルシア語書記術の発展を示す具体的なデータとして、書記術史料文献目録に添付する作業を進めた。 当初の本年度の研究計画では、トルコでの史料調査を行う予定であったが、諸事情により本研究での調査旅行計画が実行できなくなり、本研究の枠内での史料調査は行わなかった。だが、トルコへ赴く機会を得、意図していた史料収集は実現できた。 文書行政の技術指南書と並び、書記官僚の技術伝達の教科書・メディアとして重要な役割を果たしたのは、財務技術の指南書である。官僚技術伝達メディアの様式を検討するため、本年度は未調査写本を含む13-14世紀のペルシア語財務技術指南書の分析にも取り組んだ。その成果として、これまで研究されたことが無かった13世紀末の最古の本格的なペルシア語財務術指南書作品写本の内容を詳細に明らかにし、その成果を史料研究論文として発表した。
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