中央アジア東部の代表的な歴史的聖者伝である『ホージャガーン伝』 (タズキラ・イ・ホージャガーン、タズキラ・イ・アズィーザーン等の書名をもつ)の写本群において1系統に属する、パリのフランス研究所所蔵の1写本を底本にして、アラビア文字テキストをコンピュータ・ソフトに入カしてデジタルデータ化する作業を開始した。中央プジアのアラビア文字トルコ語(チャガタイ語)で書かれたテキストの正確な校訂をおこなうには内容の読解作業が必要であるため、アラビア文字テキストのデジタル化とともに日本語訳も進めている。この作業は他の系統の写本群と比較する上での基本となるものであり、本研究の中核となる作業である。 それとともに、『ホージャガーン伝』の写本群のなかで別系統であるとされている、スエーデンのルント大学所蔵の1写本との比較にも取り掛かっている。こちらの写本には、パリの写本とは異なる内容も含まれており、パリ写本の校訂作業の進展と共にその差異点の発見に努めている。目下検討しているのは、この聖者伝の主要な登場人物であるカシュガル・ホージャ家という聖者の家系の祖先についての系譜である.その祖先の中で登揚するブルハーン・アッディーン・クルチュという聖者についての伝説的物語はルントの写本が属する系統にしか見られないという際だった特徴をもっている。ブルハーン・アッティーンクルチュの聖廟(マザール)は今日の中央アジアにおいても崇敬されている。この聖者の伝説の成立と普及に関する研究を次年度にさらに進めていく。
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