『ホージャガーン伝』(タズキラ・イ・ホージャガーン、タズキラ・イ・アズィーザーン等の書名をもつ)の写本群において1系統に属するパリ・フランス研究所所蔵の1写本を底本にしてテキストの日本語訳をコンピュータ・ソフトに入力してデジタルデータ化する作業を継続した。中央アジアのアラビア文字トルコ語(チャガタイ語)で書かれたテキストの正確な校訂をおこなうには内容の読解作業が必須であるため、テキストの校訂とともに特に日本語訳の作成に力を注いでいる。この作業は他の系統の写本群と比較する上での基本となるものであり、本研究の中核となる作業である。 さらに、『ホージャガーン伝』の写本系統を分析するうえで重要と思われる系譜の記載について検討した。聖者の系譜には師弟関係を表す道統(精神的系譜)と親子関係の血統の2種類がある。『ホージャガーン伝』の諸写本には、道統と血統の2種類の系譜を載せている写本と、血統のみを載せている写本の2系統がある。前者の道統と血統を載せている写本においては、血統を記載した後にブルハーン・アッディーン・クルチュという人物についての伝説が述べられている。この人物は所謂『ホージャガーン伝』で扱われている所謂カシュガル・ホージャ家の先祖にあたるとされている。筆者はこのブルハーン・アッディーン・クルチュ伝説をカシュガル・ホージャ家に関わる他の諸聖者伝にみられるものと比較した結果、2種類の伝説、すなわち、フェルガナ盆地の宗教的伝統を反映している伝説とカシュガル地方の伝統に基づくものとの2種類があることを発見した。2008年8月27日、中国の新彊大学で開催された国際会議おいて、その研究成果を発表した。
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