『ホージャガーン伝』(タズキラ・イ・ホージャガーン、タズキラ・イ・アズィーザーン等の書名をもつ)の写本群において1系統に属するパリ・フランス研究所所蔵の1写本を底本にしてテキストの日本語訳をコンピュータ・ソフトに入力してデジタルデータ化する作業を継続し、ほぼ日本語訳を完了した。当初B系統に属する判断し底本としていた当写本は、テキストの途中からA系統の写本のテキストと同じになることが判明した。写本の書写人が最初はB系統の写本を用い、途中からA系統の写本に変更して筆写したものと思われる。これは、系統の異なる『ホージャガーン伝』写本の流布状況を考える上で興味深い事例となる。 A系統の写本のテキストは、B系統の写本の内容と共通する人物や出来事などについての記述においても、その文章表現が大幅に異なっている箇所が多く見られる。それ故、従来の先行研究で提起されている、著者は1次本(A系統の写本)を書いたのち、それを短縮して2次本(B系統の写本)を作成したという仮説が成り立つかどうかは、再検討の余地が多いにあると考えられる。
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