歴史的聖者伝である『ホージャガーン伝』(タズキラ・イ・ホージャガーン、タズキラ・イ・アズィーザーン等の書名をもつ)写本群の系統間の相違について検討を加えた。まず着目したのは、序文における相違である。3系統の写本とも一様に、序文は神に対する賛辞、預言者ムハンマドの賞賛、著者ムハンマド・サーディク・カーシュガリーによる本書作成の経緯という3つの部分から構成されており、内容も基本的に同じである。しかし、A系統とC系統の写本の序文には修辞的な言辞が多く、B系統の写本にない詩や『クルアーン』の章句の引用も見られる。序文におけるもっとも大きな相違は以下の3点である。(1)A系統とC系統の写本には「タズキラ・イ・アズィーザーン」という書名らしき語句が見られること。(2)B系統の写本ではA・C両系統写本における「タズキラ・イ・アズィーザーン」の箇所に「タズキラ・イ・ホージャガーン」の語句が見られること。(3)B系統の写本にのみ「本書タズキラ・アルジャハーン(またはタズキラ・イ・ジャハーン)」という書名らしき語句と、1182年という作成年が記されていること。 A・C両系統とB系統の写本にはホージャ家の血統と道統の記述の仕方にも相違があることも写本群の比較により浮かび上がらせることができた。 B系統の写本群のなかに作成年を1182年ではなく、1192年とする1写本がある。その内容は他のB系統よりも簡略されているが、書写年が古いこの写本を転写し翻訳する作業を進めた。 以上の作業により、『ホージャガーン伝』校訂テキスト作成のための基礎は確立しつつある。
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