今年度は、社会主義体制のもとで改変される前の主にモンゴル国の遊牧と農業に関する文献・資料を検討した。特にモンゴル国の各地の民族(主要構成民族のハルハ=モンゴル族と東部・西部に多いモンゴル系トルコ系の諸少数民族)ごとの遊牧と農業の違いを調べるために、19世紀末〜20世紀初の時期の、換言すれば社会主義体制確立以前の時代の、モンゴル国の遊牧や農業について民族別に記されている『モンゴル国民族学1-3』(本書はモンゴル人民共和国時代に同国の研究者が実地調査による資料や文献を参照してまとめられた)の関連箇所を読み検討した。これらは難解であるから、モンゴル人の協力も得て詳細に検討した。12月にはモンゴル国で同国科学アカデミー歴史研究所蔵の現地調査の報告書(未刊行報告書)の一部を複写し、また同国の遊牧・農業に関する手稿本・刊行文献を入手し、農業に関する若干の聞き取りを行った。なお内モンゴル自治区主都のフフホトでも若干の聞き取りを行った。 現代モンゴル国の遊牧については、主として20世紀前半以来の統計集を集めて精査し、それらの統計集の問題点に留意しつつ分析して、社会主義的統制がゆるんで牧民が生産意欲を高めて家畜が急増した第二次大戦直前の一時期の家畜頭数が、同国の草原の家畜牧養力の上限に案外近かったこと、1990年代の体制変革後家畜が急増した状態は、モンゴル国の草原の家畜牧養力を越えるために遊牧環境に大きな打撃を与えるおそれがあることを述べ、またモンゴル国における遊牧の大きな問題は、それが肥大化したウランバートルなどの都市の住民に乳製品を供給することが困難であることなどにあることを指摘した論考を発表した。
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