平成19年度における台湾総督府の対原住民政策に関する調査は充実した内容となり、今後さらに研究を発展させていくうえでの足がかりを得ることができた。内容を整理すれば以下のとおり。 第一に、主に夏季休暇(8月3日〜9月1日)を利用した史料調査の結果、台湾南投にある国史舘台湾文献館の総督府文書中に、報告書、月報、季刊など多様な形式で、清末撫墾局の組織・編制、日本領台後の蕃地視察報告、蕃人への聴き取り、蕃地探検復命書、民政局殖産部(課)報告、各撫墾署(出張所)、辨務署の事務成績報告、蕃産品交換所に関する史料が含まれていることが判明した。これらの史料を分析すれば、日本領台初期における総督府の蕃人・蕃地政策、通事・番割の活動状況、各交換所と原住民・流通物品・交換者との関係、内地(日本)商人との関係、交易における原住民女性の役割などの問題を解明できるものと期待できる。また台湾大学図書館所蔵の「伊能文庫」「田代文庫」には、伊能嘉矩と田代安定が詳細に観察・記録した、領台初期の原住民社会に関する貴重な史料が残されており、それらをマイクロフィルムにより閲覧することができた。台湾文献館の史料と併せて分析すれば、生き生きとした日本統治期の官蕃交易を描出できると思われる。 第二に、文献史料の閲覧・収集だけでなく、かつて実際に官蕃交易が行われていた原住民の村落へ赴いてヒアリングを実施した。具体的には台湾南部屏東県にあるパイワン族の旭海村で、日本統治期の交易所の具体的な状況や、言い伝えなどについて潘氏(女性)から話をうかがった。来年度はさらに多くのインフォーマントからヒアリングを行う予定である。
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