本年度夏季休暇までの前半は、台湾において文献史料収集と現地調査(フィールドワーク)にあたった。文献史料については、台湾大学・台湾中央研究院台湾史研究所・国家図書館台湾分館において「台湾総督府文書」、「淡新档案」、「岸裡大社文書」、『台湾日日新報』、『中央日報』、『中国時報』、『台湾時報』のほか、日本統治時代の各種統計史料、伊能嘉矩の手稿、田代安定(田代文庫)の調査書などの史料を閲覧・複写し、整理・読解作業をすすめた。また、これらの史料を利用しつつ、「一九世紀台湾の〓粤械闘からみた「番割」と漢・番の境界」と題する論文を『東洋史研究』68-4(pp.58-86)に発表した。この論文では従来強調されてきた周辺諸民族の「漢化」に対して、地理的越境のみならず文化的変容をも含めた漢民族の「番化」という現象について具体的な事例を紹介しつつ検討した。 一方で、現地調査も前年に引き続き、台湾東部山岳地帯に位置する、信義郷の潭南村・東埔村・地利村・双龍村、水里郷の民和村などの諸村落において実施し、原住民族(布農<ブヌン>族)、原住民族の村落で商店を営む漢民族、原住民族の女性と結婚した漢民族、原住民族の土地(保留地)を耕作する漢民族などのカテゴリーに含まれる人々にインタビューを行った。 夏季休暇後はインタビューのテープ起こし・整理を実施するとともに、民生商店や供銷会など原住民族との交易に関わる機関について文献史料の整理し読み込みを進めていった。これらの成果は現在も整理中で、来年度には『現代台湾の原住民族の経済と生活』(仮題)として出版の予定である。
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