前近代中国には、「捐納」と呼ばれる売官制度があった。本研究は、この制度の起源と構成、およびその社会影響を検討するものである。世界でかつて存在していた各種の売官制度の一特例である捐納制度の制度設計、この制度を生み出した政治的、経済的、社会的な諸要因を研究したことによって、筆者は、前近代中国の売官制度の特徴が任官資格や国立学校の学生資格を売買するにあること、これまで「科挙社会」と認識される明清中国社会において、広範な庶民性を持つ捐納が科挙制度を蔭で支えたとともに、科挙制度以上に人間の社会移動をも支えたことを学界ではじめて明らかにした。
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